株式会社キノックス

きのこの豆知識・その4

美味しいきのこ トリュフ

トリュフと言えばフランス料理の高級きのこ。キャビアやフォアグラと並ぶ世界の3大珍味とも言われる高級食材のひとつです。これまで日本には自生しないと思われていたのですが、この世界的な高級きのこが実は日本でも見つかっています。
 トリュフの本場は何と言ってもフランスはプロヴァンス。南フランスに位置するプロヴァンス地方は、セザンヌやゴッホの名画でもなじみの世界的にも有名な景勝地です。リオンからこのプロヴァンスへ通じる道の途中にフランス有数のトリュフの産地があり、11月から3月までの間は、毎週トリュフの市が立つことで知られています。
 この世界的な高級きのこが日本でも発見された、と言うニュースが新聞で報じられました。1998年10月5日の朝日新聞によると、京都の長岡京市で発見され、続いて2001年12月10日には中国地方の秋吉台でも国産のトリュフが見つかったとのことです。実は、国内におけるトリュフの発見はもっと古く、1981年の10月に長野県の飯縄高原で既に発見されているのです。最近では、2002年のやはり10月に福島県の郡山市や白河市などでも見つかっています。また同じ頃、岩手県の岩泉町においてもトリュフが見つかったことが新聞で報じられていました。
 そもそもトリュフは、石灰岩土壌の広葉樹のカシやナラなどの根に寄生する地下生型の菌根性きのこで、イノシシなどにより掘り出されなければなかなか発見されないものなのですが、どうやら日本に自生するトリュフは、地上近くに子実体を形成するタイプのようです。トリュフには白と黒の2種類があり、ヨーロッパでは「黒トリュフ」が、またイタリアでは「白トリュフ」が好まれますが、日本産のトリュフは色的にもその中間種的なタイプのようで、「イボセイヨウショウロ」と呼ばれ、本場フランスやイタリアの「高級」トリュフとは若干異なる「種」のようです。
 ところで、トリュフ探しに「豚」を使うことは有名ですが、なぜ「雄」ではなく「雌」豚が活躍するのか、ご存知でしょうか? それは、トリュフには雄の豚が交尾期に分泌する「性フェロモン」に似ている「臭い物質(α‐アンドロステロール)」が含まれているからなのです。ただし、豚はせっかく見つけたトリュフを食べてしまうことから、本場フランスでは今ではトリュフ探しの訓練を受けた犬が活躍しているそうです。因みに、トリュフはマツタケと同様菌根性のきのこなのですが、マツタケのように栽培が難しくはないことから、フランスやイタリアなどでは菌が感染した苗木を植栽することによる果樹園型(トリュフ園)の人工栽培が行われています。
 トリュフは、子のう菌類のセイヨウショウロタケ科の一部とイモタケ科の一部地下生菌類(外生菌根菌)の総称で、フランスやイタリアなどのヨーロッパ以外にもインドや中国などのアジアでも発見されており、今では何と中国の雲南省が世界一の「黒トリュフ」の生産国なのです。どうやらトリュフには、「ヨーロッパ」型と「アジア」型とがあるようで、日本で見つかった黒トリュフは中国産の「変種」とされており、地上近くに子実体を形成するタイプのようです。トリュフには白と黒の2種類があることは前述した通りですが、特に白トリュフ(Tuber magnatum)は世界で最も高価なきのことして知られています。10年程前にこの世界最高級きのこが福島県でも見つかったと報道され、一時マスコミの話題となりました。しかし、子のう胞子の形態が異なることから、残念ながら本物の白トリュフではなかったとのことです。
 ところで、白トリュフ型のきのこに「砂漠のトリュフ」と呼ばれるジャガイモのような形をしたきのこがあります。名前も形の類似性からイモタケ(Terfezia gigantea)と呼ばれています。イモタケも世界的に広く分付するきのこで、トリュフに似た特有の匂い(佃煮臭)も発することから、白トリュフ(セイヨウショウロ科)とよく間違われたりします。しかし、生息環境や子のうの中の胞子の数、さらには胞子表面の模様の違いなどからイモタケ(イモタケ科)は科が異なる別種のきのこなのです。なお、日本でもイモタケは見つかっていますが、海外のように乾燥地帯に生息している訳ではなく、殻皮表面の形態や形も大型であることから、トリュフ同様に本物とは異なる種とされています。
 トリュフは「香り」が命なのですが、どうやら日本人には相性が悪いようで、「黒いダイヤモンド」とまで呼ばれる世界的な高級きのこであっても、ヨーロッパ人のように「この世で最高の芳香」とは感じられず、どうも悪臭や汚臭に喩えられるケースが多いようです。あたかも、外国人における「マツタケ臭」の酷評と類似しており、どうやらきのこの「香り」に対する評価は、人種間で「価値観」に大きな較差があるようです。


白トリュフとイモタケの比較表

  胞子の数 胞子の形状 匂い
白トリュフ
(セイヨウショウロ科)
(Tuber magnatum)
通常2~4個 トゲ少なく、表面大きな亀裂模様 ガス様のニンニク臭
イモタケ
(イモタケ科)
(Terfezia gigantea)
通常8個 表面細かいトゲ状 乾した海藻臭。味はえぐ味が強い。




(フランス産黒トリュフ)
フランス産黒トリュフ
写真引用文献
菌類のふしぎ―形とはたらきの驚異の多様性―(2008年)
著者:国立科学博物館編、発行所:東海大学出版会



イボセイヨウショウロ
写真引用文献:河北新報(2004年2月8日)