きのこの豆知識・その2 きのこの寿命 世界保健機関(WHO)が発表した2010年の日本人の平均寿命は83.6歳(男性が79歳、女性は86歳)で、世界一と言われています。きのこもヒトヨタケのように一晩で消滅してしまうものやマンネンタケのように長年にわたり生き続けるものまであることから、やはり寿命はあるものと思われますが、それでは、きのこの寿命はいったいどれくらいなのでしょうか? きのこの寿命を考える場合、きのこの本体が子実体ではなく菌糸の集合体であることから、地面の中や木材中の「菌糸」本体の寿命と子孫繁栄のために形成される子実体から放出される「胞子」の寿命とに分けて考える必要があります。 菌糸の寿命については、分子生物学的手法が開発されるようになってきのこの菌糸の遺伝子解析が行われるようになった結果、アメリカの森林に生息しているナラタケの仲間のきのこ(アルミラリア・ブルボーサ)の年齢が推定され、約1,500歳以上であることが判明し、体(菌糸体)の大きさが15haで重さ10t以上と推定される世界最大の生物と判明したことは有名な話であります。これはもちろん、1本の菌糸が1,500年間も行き続けたという訳ではなく、我々人間の体が常に細胞が入れ替わっているのと同様に、同じ菌糸に由来したと推定される遺伝的に同一の菌糸(ジェネット)が1,500年間その森の中で生長を続けたと言うことなのです。 しかし、アメリカで発見されたナラタケの仲間のきのこの例は極めて特異的であり、自然界での平均的な菌糸の寿命は1年から数年と比較的短命だと言われています。若い樹齢の森の菌糸コロニーは比較的短命で、古い樹齢の森のコロニーは長命である傾向が認められ、外生菌根菌のコロニーの寿命は、共生する樹木の樹齢と生育する森の環境に大きく左右されると言われています。 なお、人工培養された菌糸は、培地が乾燥しないように流動パラフィン等で封をして保存あるいは-80℃以下の超低温環境下で保存することにより、人為的ではありますが半永久的に寿命を維持することが可能なのです。 また、胞子の寿命については、きのこの種類によっても異なりますが、数十日から長いものでも数年だと言われています。胞子の外壁が薄いものは乾燥に弱く、湿度のない環境下では短命となってしまいます。厚壁で色のついた胞子は、乾燥や紫外線などの悪条件下でも長期間生き延びることができます。一般的に外生菌根菌の胞子は腐生菌に比べ短命だと言われ、菌根菌の代表であるマツタケの胞子は薄膜でしかも透明であることから、他のきのこに比べて寿命が非常に短いことで知られています。きのこ菌糸体の保存後の生存状況(液体窒素凍結保存) 分類群 供試菌株 保存期間 1ヶ月後の再生菌株数 10年後の再生菌株数 ヒダナシタケ目 174 173(99.4%) 173(99.4%) ハラタケ目 355 354(99.7%) 354(99.7%) キクラゲ目 20 20(100.0%) 20(100.0%) アカキクラゲ目 4 4(100.0%) 4(100.0%) ホコリタケ目 1 1(100.0%) 1(100.0%) チャダイゴケ目 1 1(100.0%) 1(100.0%) スッポンタケ目 1 1(100.0%) 1(100.0%) シロキクラゲ目 3 3(100.0%) 3(100.0%) データ引用文献 2010年度版きのこ年鑑別冊「最新きのこ栽培技術」 発行所:(株)プランツワールド ◆ きのこの豆知識 目次ページへ戻る ◆
きのこの寿命
世界保健機関(WHO)が発表した2010年の日本人の平均寿命は83.6歳(男性が79歳、女性は86歳)で、世界一と言われています。きのこもヒトヨタケのように一晩で消滅してしまうものやマンネンタケのように長年にわたり生き続けるものまであることから、やはり寿命はあるものと思われますが、それでは、きのこの寿命はいったいどれくらいなのでしょうか?
きのこの寿命を考える場合、きのこの本体が子実体ではなく菌糸の集合体であることから、地面の中や木材中の「菌糸」本体の寿命と子孫繁栄のために形成される子実体から放出される「胞子」の寿命とに分けて考える必要があります。
菌糸の寿命については、分子生物学的手法が開発されるようになってきのこの菌糸の遺伝子解析が行われるようになった結果、アメリカの森林に生息しているナラタケの仲間のきのこ(アルミラリア・ブルボーサ)の年齢が推定され、約1,500歳以上であることが判明し、体(菌糸体)の大きさが15haで重さ10t以上と推定される世界最大の生物と判明したことは有名な話であります。これはもちろん、1本の菌糸が1,500年間も行き続けたという訳ではなく、我々人間の体が常に細胞が入れ替わっているのと同様に、同じ菌糸に由来したと推定される遺伝的に同一の菌糸(ジェネット)が1,500年間その森の中で生長を続けたと言うことなのです。
しかし、アメリカで発見されたナラタケの仲間のきのこの例は極めて特異的であり、自然界での平均的な菌糸の寿命は1年から数年と比較的短命だと言われています。若い樹齢の森の菌糸コロニーは比較的短命で、古い樹齢の森のコロニーは長命である傾向が認められ、外生菌根菌のコロニーの寿命は、共生する樹木の樹齢と生育する森の環境に大きく左右されると言われています。
なお、人工培養された菌糸は、培地が乾燥しないように流動パラフィン等で封をして保存あるいは-80℃以下の超低温環境下で保存することにより、人為的ではありますが半永久的に寿命を維持することが可能なのです。
また、胞子の寿命については、きのこの種類によっても異なりますが、数十日から長いものでも数年だと言われています。胞子の外壁が薄いものは乾燥に弱く、湿度のない環境下では短命となってしまいます。厚壁で色のついた胞子は、乾燥や紫外線などの悪条件下でも長期間生き延びることができます。一般的に外生菌根菌の胞子は腐生菌に比べ短命だと言われ、菌根菌の代表であるマツタケの胞子は薄膜でしかも透明であることから、他のきのこに比べて寿命が非常に短いことで知られています。
きのこ菌糸体の保存後の生存状況(液体窒素凍結保存)
データ引用文献
2010年度版きのこ年鑑別冊「最新きのこ栽培技術」
発行所:(株)プランツワールド