株式会社キノックス

きのこ驚きの秘密・その3

進化するきのこ

菌類は腐生型の栄養摂取を行う生物として地球上に登場し、進化の過程で後から樹木の根との共生(菌根共生)生活の手段を獲得したと言われています。きのこには分類上、「しいたけ」や「きくらげ」などのように担子器と呼ばれる器官に胞子を形成する「担子菌類」と、トリュフやアミガサタケのように子のうと呼ばれる細長い袋の中に胞子を作る「子のう菌類」との2つの大きなグループがあり、ともに共通の先祖から4億年ほど前に別れたのではないかと言われています。しかし、その形態は極めてバラエティーに富んだ形に進化しており、担子菌類に属するきのこの形には、傘と柄を持つ典型的なきのこ形(マツタケ)のものから、棍棒状(スリコギタケ)、サンゴ状(ホウキタケ)、耳たぶ状(キクラゲ)、球状(ショウロ)など様々な形態に進化していることが知られています。
きのこがこのように多様な形を成している理由としては、子孫繁栄のための胞子をできるだけたくさん作り出すために、それぞれ特有の形に進化したものだと言われており、これまではきのこ全体の形や傘の形状の特徴などに因んでグループ分けすることで、きのこの分類が行われてきました。しかし、近年になってきのこの遺伝子が調べられるようになった結果、外観の形がまったく異なっているにも拘らず遺伝子が極めて近い関係にあるきのこの存在が徐々に解明されるようになり、これまでの形態特性に基づいた分類法が見直されるようになっています。最近のDNA鑑定の結果によれば、形の単純なものから複雑なものへと時系列的に進化している訳ではなく、それぞれのグループの中で独立して独自の形態に進化していったと言われています。
「きのこ形」でない「きくらげ」などに代表されるきのこは、しいたけなどのように「ヒダ」のあるきのことは異なり、菌傘裏面のシワ状の凹凸表面部分に胞子を直接形成しますが、あまり遠くまで胞子を飛ばすことはできません。キクラゲ類の胞子を形成する「担子器」は「多室担子器」と呼ばれ、しいたけなどの「単室担子器」と比べ構造的には原始的な形で、子のう菌類から担子菌類への進化の中間形状だと言われています。また、ショウロなどの地下生菌は、土の中で生息することから風や空を飛ぶ虫などは当てにできないため、自力で胞子を散布することを断念し、特有の匂いを発することでダンゴムシのような地下棲動物の力を借りて上手に胞子を拡散できるように進化したと言われています。
最近の分子生物学的手法による研究においては、これまで考えられていた殻皮に包まれたきのことしてグループ化されていたショウロ属やホコリタケ属などの地下生菌類の分類群である「腹菌類」は、イグチ目やハラタケ目などのきのこが地中に潜った結果であることが解明されたため、DNAによる新分類大系においては、完全にグループが消滅してしまったのです。すなわち、きのこ達は球形や不規則な塊形に姿を変え、「腹菌型」へ向けて進化している事実が解明されたのです。昨今の異常気象が恒常化しつつある地球の気候環境下において、きのこ達は地下生菌に姿を変え、地球上の最後の生物として生き残るための手段として、乾燥化や気温などの激変に 対応できるように環境変化の極力少ない地下を選択し、地中生活のための準備として、人類よりも一足先に進化を成し遂げようとしているのかもしれません。

(図)きのこの進化の流れ




(写真1)チャワンタケの仲間からクルミタケ、さらにはトリュフの仲間への進化

地上生のチャワンタケ(子のう菌)は茶碗型の子のう盤が内側に折り畳まれて塊状の子のう果となり、子のう盤の空隙に沿って胞子を形成する「子のう」が並ぶ地下生菌のクルミタケへ進化。更に進化したトリュフでは、子のう果の空隙がなくなって大理石模様となる。
写真引用文献 :楽しい自然観察 きのこ博士入門(2006年)
著者:根田 仁、伊沢正名、 発行所:全国農村教育協会

(写真2)フウセンタケの仲間からサクステロガステル・ポリフィレウム(有袋菌)への進化

サクステロガステル・ポリフィレウムは腹菌型の形態で地上に発生し、腹菌型とハラタケ目の中間に位置する「腹菌的ハラタケ群」のきのこ(有袋菌)。左側のフウセンタケの仲間のきのこから腹菌型の形態(有袋菌)へ進化している。
写真引用文献 :楽しい自然観察 きのこ博士入門(2006年)
著者:根田 仁、伊沢正名、 発行所:全国農村教育協会