きのこの豆知識・その3 きのこの発光 自然界ではホタルなどの昆虫やホタルイカなどの魚介類が光を発する(発光現象)ことが知られています。このような生物発光は、化学的エネルギーを光エネルギーに変換する化学反応の結果として発生する現象だと言われています。2008年にアメリカボストン大学名誉教授の下村脩博士が光るクラゲ(オワンクラゲ)から紫外線を照射すれば光を吸収して緑色光を発する「緑色蛍光タンパク質(GFP)」を発見してノーベル化学賞を受賞したことで、生物発光が一躍注目されるようになりました。昆虫や魚介類がなぜ発光するかについては、これまで多くの基礎研究がなされ、その理由が明らかとされてきています。生物発光の目的としては、(1)発光生物に真似て誘引して捕食する「擬態」、(2)誘引、(3)撃退、(4)通信、(5)照明の5つの理由があると言われていますが、発光きのこについてはこれまであまり注目されてきませんでした。地球上の発光生物の種類は意外に多く、高等動物や植物を除き、バクテリアから深海魚、さらにはきのこなど約10万種に及ぶと言われています。その発光の仕組みはノーベル賞受賞で話題となったオワンクラゲなどを除いて、基本的には同じメカニズムだと言われています。 これまできのこの発光メカニズムに関しては、体内に過剰に存在することで有害となる「活性酸素」を処理するための作用(酸素毒性解除機構)、あるいは低酸素濃度下で効率的にエネルギーを獲得(呼吸連鎖機構のバイパス)するための「酸素呼吸の原型」ではないかと考えられてきました。しかし、脂肪代謝酵素と発光酵素の構造が似ていることに着目し、遺伝子組み換えによりホタルの発光メカニズムの解明に成功した大場裕一博士ら名古屋大学などの研究チームにより、ありふれた体内物質である「脂肪代謝酵素」の突然変異が光の起源であることが突き止められたのです。具体的には、脂肪代謝酵素から変異した発光酵素の「ルシフェラーゼ」の働きで発光の基となる「ルシフェリン」を酸化して光を発するようになったとのことです。脂肪代謝酵素は、脂肪を燃やしてエネルギーに変える働きがありますが、この酵素が「発光酵素」に突然変異したことで、きのこは光を発するようになったと言われています。 発光の基となるルシフェリンは、オワンクラゲやホタルイカなどの場合は餌のプランクトンから取り込んでいるのですが、ホタルやきのこ類は生体内から同成分が抽出されていることから、自分の体内で合成が可能なようです。 きのこの発光現象については、近年、そのメカニズムがようやく解明されたのですが、それでは一体、何のために光るのでしょうか…? 発光の目的については、一般的に光を発することによって昆虫を誘発し、胞子飛散の手助けとしていることなどが考えられます。しかし、きのこの発光現象についてはまだまだ未知の部分が多く、その生物学的意義は十分に分かっていません。発光する代表的なきのこは表1と2に示した通りですが、因みに、肉眼で確認できる発光きのこの光の波長は520nm前後、肉眼で感じる色調は黄緑色です。 光を発する真の目的などにおいて今だ謎の多いきのこの発光現象ですが、ノーベル賞を受賞した下村博士は、2001年の退職後もボストンの自宅で研究活動を続けており、自宅裏山の発光きのこの採集に余念がないとのことで、クラゲの次の研究ターゲットとして、発光きのこの取り組みへの意欲を語っているとのことです。表1)肉眼で確認できる発光きのこ 科 名 和 名 キシメジ科 ツキヨタケ ヤコウタケ アミヒカリタケ シイノトモシビタケ スズメタケ エナシラッシタケ 表2)肉眼では見えないが発光が確認されているきのこ 科 名 和 名 キシメジ科 ナラタケ ナラタケモドキ ワサビタケ ベニタケ科 ベニタケ属のきのこ チチタケ属のきのこ ◆ きのこの豆知識 目次ページへ戻る ◆
きのこの発光
自然界ではホタルなどの昆虫やホタルイカなどの魚介類が光を発する(発光現象)ことが知られています。このような生物発光は、化学的エネルギーを光エネルギーに変換する化学反応の結果として発生する現象だと言われています。2008年にアメリカボストン大学名誉教授の下村脩博士が光るクラゲ(オワンクラゲ)から紫外線を照射すれば光を吸収して緑色光を発する「緑色蛍光タンパク質(GFP)」を発見してノーベル化学賞を受賞したことで、生物発光が一躍注目されるようになりました。昆虫や魚介類がなぜ発光するかについては、これまで多くの基礎研究がなされ、その理由が明らかとされてきています。生物発光の目的としては、(1)発光生物に真似て誘引して捕食する「擬態」、(2)誘引、(3)撃退、(4)通信、(5)照明の5つの理由があると言われていますが、発光きのこについてはこれまであまり注目されてきませんでした。地球上の発光生物の種類は意外に多く、高等動物や植物を除き、バクテリアから深海魚、さらにはきのこなど約10万種に及ぶと言われています。その発光の仕組みはノーベル賞受賞で話題となったオワンクラゲなどを除いて、基本的には同じメカニズムだと言われています。
これまできのこの発光メカニズムに関しては、体内に過剰に存在することで有害となる「活性酸素」を処理するための作用(酸素毒性解除機構)、あるいは低酸素濃度下で効率的にエネルギーを獲得(呼吸連鎖機構のバイパス)するための「酸素呼吸の原型」ではないかと考えられてきました。しかし、脂肪代謝酵素と発光酵素の構造が似ていることに着目し、遺伝子組み換えによりホタルの発光メカニズムの解明に成功した大場裕一博士ら名古屋大学などの研究チームにより、ありふれた体内物質である「脂肪代謝酵素」の突然変異が光の起源であることが突き止められたのです。具体的には、脂肪代謝酵素から変異した発光酵素の「ルシフェラーゼ」の働きで発光の基となる「ルシフェリン」を酸化して光を発するようになったとのことです。脂肪代謝酵素は、脂肪を燃やしてエネルギーに変える働きがありますが、この酵素が「発光酵素」に突然変異したことで、きのこは光を発するようになったと言われています。
発光の基となるルシフェリンは、オワンクラゲやホタルイカなどの場合は餌のプランクトンから取り込んでいるのですが、ホタルやきのこ類は生体内から同成分が抽出されていることから、自分の体内で合成が可能なようです。
きのこの発光現象については、近年、そのメカニズムがようやく解明されたのですが、それでは一体、何のために光るのでしょうか…?
発光の目的については、一般的に光を発することによって昆虫を誘発し、胞子飛散の手助けとしていることなどが考えられます。しかし、きのこの発光現象についてはまだまだ未知の部分が多く、その生物学的意義は十分に分かっていません。発光する代表的なきのこは表1と2に示した通りですが、因みに、肉眼で確認できる発光きのこの光の波長は520nm前後、肉眼で感じる色調は黄緑色です。
光を発する真の目的などにおいて今だ謎の多いきのこの発光現象ですが、ノーベル賞を受賞した下村博士は、2001年の退職後もボストンの自宅で研究活動を続けており、自宅裏山の発光きのこの採集に余念がないとのことで、クラゲの次の研究ターゲットとして、発光きのこの取り組みへの意欲を語っているとのことです。
表1)肉眼で確認できる発光きのこ
表2)肉眼では見えないが発光が確認されているきのこ