株式会社キノックス

エリンギの栽培における病害と対策

エリンギは温帯モンスーン型気候の日本に自生しないことから、栽培に当たっては、様々な病害を誘発することの多いきのこであります。生育管理時において認められる主要な症例を画像主体にして、その原因と対策についても簡略に取りまとめてみましたので、栽培の参考にしてみて下さい。(詳しくは(株)プランツワールド発刊の「図説基礎からのエリンギ栽培」をご参照下さい。)

 1、菌掻き後の菌床表面に気中菌糸の再生がない(過乾燥症状)
 2、菌掻き後の菌床表面に気中菌糸が多発して、ビン頸部内壁面の菌糸層に原基が形成される(加湿過多症状)
 3、10日以上経過しても原基が形成されない(不発芽症状)
 4、菌糸塊状の原基が形成される(奇形芽症状)
 5、きのこの菌柄が曲がる(屈曲病)
 6、きのこの菌柄表面がササクレ状になる(ササクレ病)
 7、形成された子実体原基が腐れる(腐敗病)
 8、菌掻き後の菌床表面が黄色に着色して、赤黄色の水が溜まる(赤水症状)
 9、発生したきのこの根部が綿毛状の菌糸で覆われる(クラドボトリウム病)
 10、きのこのヒダ部分がクモの巣状に覆われる(クモノス病)
 11、発生するきのこの形状が奇形になるものが多い(奇形症状)
 12、きのこの傘がすぐに漏斗状となる(漏斗症状)
 13、きのこが小型で大きくならない(矮化症状)
 14、菌傘と菌柄の付け根部分が黄変して萎縮してしまい、きのこの生育が停止する(萎縮病)
 15、きのこの傘の表面に凹凸模様が生じる(菌傘凸症状)
 16、きのこの柄にシワができたり、柄が拗れたりする(変皺病)
 17、きのこの生育方向が一定化しない(不斉症状)
 18、きのこが細く、しかも弱々しくて大きく育たない(軟弱症状)
 19、芽が出過ぎ状態となり、発生するきのこが小さい(発生過多症状)
 20、菌柄の一部がピンク色に変色して、きのこの生育が停止してしまう(ピンク病)
 21、菌床の表面からきのこが発生せずにビン中発生するものが多い(ビン中発生症状)
 22、幼子実体の菌柄、あるいは一度形成された原基から、再度新たな原基が形成される(脱分化症状)
 23、発生操作後の菌床表面が深緑色に変色する(トリコデルマ病)
 24、正常に生育した子実体の菌柄部が一夜にして黄褐色に着色する(酵母病)
 25、きのこの表面に水滴が付着する(吐水症状)

1、菌掻き後の菌床表面に気中菌糸の再生がない

『過乾燥症状』

過乾燥症状画像
原因
芽出し時における湿度管理が低過ぎる、或いは菌床がバクテリア類などの害菌汚染を受けているために生じる症状。

対策
エリンギ栽培においては、発芽数をコントロールする目的で、芽出し湿度を他のきのこ類に比べ低めに管理するが、60%以下の極端な乾燥管理が継続した場合には、菌掻き後の再生菌糸が発生しないことがある。60~98%の湿度範囲で、乾/湿較差を大きくつけた管理を心掛ける。また、バクテリア類などの混入が原因の場合には、殺菌工程など発生操作以前の工程の見直しが必要である。

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2、菌掻き後の菌床表面に気中菌糸が多発して、ビン頸部内壁面の菌糸層に原基が形成される

『加湿過多症状』

加湿過多症状画像
原因
芽出し時における湿度管理が高過ぎるために生じる症状。

対策
菌掻き後の菌床を90%以上の湿度環境下で連続的に管理することで生じるため、芽出し時における湿度管理は、必ず乾/湿の較差を大きくつけるように管理する。芽出し前半(3~5日間)は、菌糸の再生を促す目的で湿度は90%以上の高めに、後半(5~7日間)は、発芽数をコントロールする目的で、60~98%の範囲内で湿度較差を大きく付けた2段階設定の芽出し管理を心掛ける。

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3、10日以上経過しても原基が形成されない

『不発芽症状』

不発芽症状画像
原因
芽出しの管理温度が不適切、或いはバクテリア類などの害菌混入により、熟成不良となっているために生じる症状。

対策
エリンギは、12~26℃の温度範囲内において発生は可能であるが、所定期間(7~10日間)内に原基を形成させるためには、15~18℃の温度範囲内での管理が重要である。バクテリア類などの害菌混入により正常な熟度に達していない場合には、殺菌工程など発生操作以前の工程の見直しが必要である。

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4、菌糸塊状の原基が形成される

『奇形芽症状』

奇形芽症状画像
原因
培養工程における温度管理、換気管理などの不適正により、菌床が適正熟度状態となっていないために生じる子実体の奇形症状。

対策
菌床が熟度不良となる原因については種々の原因が考えられるが、主な理由としては、培養管理における温度不足、或いは換気不良による酸欠培養などがある。管理温度としては、累積温度で800℃(室温23℃)以上が必要で、室内炭酸ガス濃度も3,000ppm 以下で管理することが肝要である。

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5、きのこの菌柄が曲がる

『屈曲病』

屈曲病画像
原因
原基形成時におけるバクテリア類などの感染で生じる菌柄の生育障害の症状。他に、種菌の自家増殖などによる菌株劣化により生じる場合もある。

対策
芽出し工程時の湿度管理において、乾/湿の較差を大きくつけた管理を行なうことで、恒常的な高湿度環境を避け、害菌類の感染や室内の累積汚染の防止に努める。また、使用する種菌は、信頼のおける種菌メーカーのものを用いるように心掛け、安易な自家増殖は避けることが肝要である。

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6、きのこの菌柄表面がササクレ状になる

『ササクレ病』

ササクレ病画像
原因
培養工程における温度管理、換気管理の不適性や培地不適合などにより、菌床が軽度の熟成不良の状態、或いは原基形成時の高温障害などが原因で生じる菌柄の奇形症状。

対策
培養時における温度、換気管理の徹底、或いは培地調製時における栄養源の種類や添加量、培地充填量などの熟成不良原因の見直しが必要である。また、原基形成時の管理温度は20℃以上とならないように心掛ける。

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7、形成された子実体原基が腐れる

『腐敗病』

腐敗病画像
原因
芽出し工程時における恒常的な湿度過多管理下での、シュードモナス属などバクテリア類の感染のために生じる子実体原基の腐敗症状。

対策
芽出しや生育時の連続的な高湿度管理を避け、湿度較差を大きくつけることで害菌類の発生、並びに累積汚染の防止に努める。また、未熟菌床に多く見受けられる症状であることから、培養における健全な菌床作りにも留意が必要である。

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8、菌掻き後の菌床表面が黄色に着色して、赤黄色の水が溜まる

『赤水症状』

赤水症状画像
原因
放冷工程、接種工程、或いは培養初期の管理におけるコンタミネーションがもとで、菌床表面が害菌による汚染を受けたことが原因で生じる病害症状。

対策
殺菌終了後の放冷過程での、戻り空気による害菌の再汚染や接種作業時のコンタミネーション、或いは培養初期のクーラーなどの風による害菌の混入が原因。各工程における作業内容、並びに無菌操作の見直しが必要である。

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9、発生したきのこの根部が綿毛状の菌糸で覆われる

『クラドボトリウム病』

クラドボトリウム病画像
原因
生育工程の管理湿度が高いことがもとで、子実体の菌柄根部などに綿毛状の害菌である、クラドボトリウム属が感染することで生じる病害症状。

対策
生育室の管理湿度が常に高いことが原因で生じるため、換気回数を増加させるなどにより常時高湿度環境を避けて、湿度較差を意図的に大きくつけるように管理する。

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10、きのこのヒダ部分がクモの巣状に覆われる

『クモノス病』

クモノス病画像
原因
生育室でのキノコバエ類の発生による営巣が原因で生じる症状。

対策
キノコバエ類の発生原因となる高温多湿環境を避ける。生育室の管理温度は18℃以下とし、常時高湿状態を避けて、乾/湿の較差を大きくつけるように管理する。また、エサとなるきのこの取り残しなどがないように収穫終了後の掃除を徹底し、廃床処理も速やかに行なうように心掛ける。

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11、発生するきのこの形状が奇形になるものが多い

『奇形症状』

奇形症状画像
原因
仕込み時の充填における軟詰め、或いは芽出し初期における乾燥が原因で、菌床とビン頸部壁面とに空隙が生じ、その間隙に原基が形成されることで生じる子実体原基の炭酸ガス弊害の症状。

対策
仕込み時における軟詰めに注意し、適正充填(含水率が66~68%の場合の充填量の目安は、内容量で500~580g)を心掛ける。ただし、充填量は栄養源の種類により異なるので、注意する。

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12、きのこの傘がすぐに漏斗状となる

『漏斗症状』

漏斗症状画像
原因
生育管理時の換気不足による炭酸ガス障害により生じる菌傘の奇形症状。

対策
室内の炭酸ガス濃度が3,000ppm 以下となるように換気回数を増やすなどにより、ガス濃度の低下に努める。換気管理としては、常に一定の炭酸ガス濃度で管理することよりも、800~3,000ppm の範囲内で、濃度幅を大きく設定することの方が理想である。

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13、きのこが小型で大きくならない

『矮化症状』

矮化症状画像
原因
芽出し工程の過剰な湿度管理による発生過多、或いは菌株劣化により生じる症状。

対策
エリンギは、芽出し時の湿度を常時高い環境下で管理することで発芽数が増加し、小型化する傾向にある。芽出し時における高湿度管理を避け、湿度較差を大きくつけることで、発芽数の抑制を心掛ける。また、菌株劣化を防止する目的で、自家増殖の繰り返しは避けることが肝要である。

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14、菌傘と菌柄の付け根部分が黄変して萎縮してしまい、きのこの生育が停止する

『萎縮病』

萎縮病画像
原因
原基の形成時から生育初期過程における幼子実体のバクテリア類の感染が原因で生じる病害症状。

対策
芽出し工程後半における、原基から子実体への切り替わり時期の管理湿度が高い場合には、室内の累積汚染の進行により種々の病害を生じる。特に生育初期の正立状態へ戻した直後は、ビン口に「発芽水」が停留し易くなることから、発芽水が2~3日で飛散するように湿度較差を大きくつけた管理を心掛ける。

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15、きのこの傘の表面に凹凸模様が生じる

『菌傘凸症状』

菌傘凸症状画像
原因
生育時の管理温度が低い場合に生じる菌傘表面の奇形症状。

対策
14℃以下で生育管理を行なった場合には、菌傘の色が濃くなり、しかも菌傘表面に凹凸を生じ、マダラ状の繊維模様を形成するようになることから、生育管理温度に注意する。

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16、きのこの柄にシワができたり、柄が拗れたりする

『変皺病』

変皺病画像
原因
原基形成時、或いは幼子実体時におけるバクテリア類の感染やエリンギの胞子による汚染などが原因で生じる病害症状。

対策
エリンギは、幼子実体の時から胞子を飛散し、飛散量も多いことから、芽出しと生育との混在管理を避け、必ず専用の芽出し室を設置する。また、胞子汚染に伴うバクテリア類の2次感染を防止する目的で、定期的な室内洗浄を心掛ける。

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17、きのこの生育方向が一定化しない

『不斉症状』

不斉症状画像
原因
無菌掻きでの発生、或いは菌掻き後の芽出し工程における高湿度管理により、ビン頸部内壁面に生じた気中菌糸層に原基が形成されることで生じる症状。

対策
菌掻き操作の励行、或いは芽出し時の湿度管理を前半と後半とに2分し、前半の菌糸再生のための高湿度環境が、後半管理にまで連続しないよう湿度管理に注意する。

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18、きのこが細く、しかも弱々しくて大きく育たない

『軟弱症状』

軟弱症状画像
原因
芽出し時の管理湿度が高いために、ビン頸部の内壁面に発生した気中菌糸層部位に原基が形成されることで生じる症状。

対策
芽出し管理において、菌糸再生後(後期芽出し)の湿度較差を大きく設定することにより、ビン頸部内壁面への気中菌糸の立ち上がりの防止に心掛ける。

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19、芽が出過ぎ状態となり、発生するきのこが小さい

『発生過多症状』

発生過多症状画像
原因
芽出し時における管理湿度が常に90%以上の高い状態になっている、或いは菌掻きが浅過ぎることで、菌床表面に多数の原基が形成されるために生じる発生過多症状。

対策
芽出し工程における湿度較差を大きくつけて管理する。また、菌掻き作業においては、浅くなるにつれて芽数が増加の傾向にあることから、10mm以上(理想は15mm)の深掻きを心掛ける。

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20、菌柄の一部がピンク色に変色して、きのこの生育が停止してしまう

『ピンク病』

スポロトリクス病画像1
スポロトリクス病画像2
原因
生育室の管理湿度が高いための室内累積汚染の進行により、幼子実体がスピセラム属の糸状菌(Spicellum roseum)に感染することで、ピンク色に変色する病害症状。バクテリア類の複合感染を受けている場合が多い。

対策
他の栽培きのこ類と比較して、害菌類に対する抵抗性が弱いことから、芽出し室、並びに生育室の洗浄と消毒を徹底し、室内の累積汚染予防を心掛ける。

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21、菌床の表面からきのこが発生せずにビン中発生するものが多い

『ビン中発生症状』

ビン中発生症状画像
原因
菌掻き直後の芽出し管理における、菌床表面の過乾燥あるいは仕込み時における、培地の軟詰めのための培地収縮が原因で生じる症状。

対策
培養の経過に伴い培地が収縮することから、仕込み時の充填量(栄養源により異なる)に留意する。また、菌掻き直後の芽出し前半における過乾燥に注意する。

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22、幼子実体の菌柄、あるいは一度形成された原基から、再度新たな原基が形成される

『脱分化症状』

脱分化症状画像
原因
一度形成された原基、あるいは子実体が、乾燥や炭酸ガスなどの障害を受けて生育が一時的に停止(仮死)状態となったために生じる、菌糸体組織の脱分化症状。

対策
原基形成直後の乾燥時間が長く、原基への乾燥ダメージが強過ぎた場合などに生じることから、生育初期工程における湿度管理に配慮する。被覆芽出しの場合は、高濃度の炭酸ガスで原基の生育障害を生じる場合があることから、生育室内のガス濃度や被覆材の取り外しのタイミングに注意する。

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23、発生操作後の菌床表面が深緑色に変色する

『トリコデルマ病』

トリコデルマ病画像
原因
培養中の菌床がビン内温度の上昇や酸欠培養などにより障害を受けたことが原因で生じる病害症状。

対策
接種後の菌糸は10日目頃より呼吸が旺盛となることから、接種後10~25日目までの15日間の温度管理に注意し、ビン間温度で26℃(菌床温度28℃)以上とならないように管理する。また、気中菌糸によるキャップ目詰りから生じる酸欠培養にも注意する。

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24、正常に生育した子実体の菌柄部が一夜にして黄褐色に着色する

『酵母病』

酵母病画像
原因
発生室内が酵母菌で累積汚染を受けたことが原因で生じる病害症状。

対策
エリンギは、培地からの水の吸引力が強く、しかも子実体中のトレハロース含有量が多いことから、酵母菌等による表面感染を受け易い。その結果、生育環境の湿度如何では、収穫直前状態で罹病する場合がある(日和見感染)。子実体の新陳代謝を促進して水分発散を促す目的で、生育最盛期における湿度較差を大きくつけた管理、並びに累積汚染防止のための定期的な室内洗浄を心掛ける。

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25、きのこの表面に水滴が付着する

『吐水症状』

吐水症状画像
原因
エリンギは、きのこの生育時に子実体中へ旺盛に水を取り込むことから、生育子実体の新陳代謝異常による表面への代謝水の結露症状。バクテリア類や酵母菌などの2次感染を誘発し易いことから、生育時における種々の病害発生の要因ともなる。

対策
生育時の湿度管理において、湿度較差を大きくつけることにより、子実体の水分代謝の促進を心掛ける。特に生育温度と外気温との較差の少なくなる春、或いは秋に多く見受けられることから、この時期の湿度管理には特に注意が必要である。栽培に当たっては、生育段階で如何に「乾かしの管理」を上手に導入するかがポイントとなる。

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■ご注意! きのこ種菌の拡大培養は種苗法により禁じられております。