株式会社キノックス

きのこの豆知識・その4

美味しいきのこ ホンシメジ

ホンシメジ(Lyophyllum shimeji)は、キシメジ科シメジ属のきのこで、古来よりきのこと言えば、「香りマツタケ、味シメジ」と言われるように、美味さの点に関してはホンシメジが何と言っても一番です。ホンシメジは、マツタケ同様「菌根菌」に属するきのこで、これまでは人工栽培が不可能とされてきました。それゆえ、この美味しいきのこの名前にあやかって、古くからまったく異なるきのこである「ヒラタケ」に「シメジ」の名前を付けて販売がなされてきた経緯があります。つい最近までは、ヒラタケに比べて抜群に日保ちの良好な「ブナシメジ」が、「○○ホンシメジ」としてスーパーなどで大量に販売されていました。この「○○ホンシメジ(=ブナシメジ)」と呼ばれるきのこは、前述の古くからの言い伝えの「味シメジ」とは分類学的に「属」の異なるまったく別のきのこなのですが、長野県で独占的に栽培されるようになり、歯応えの良さとネーミング効果で、あっという間に「ヒラタケ」に取って代わって販売されるようになったのです。そもそも「シメジ」と呼ばれるきのこは存在しませんが、一般的には野生のホンシメジを指します。それゆえ、「○○シメジ」の名称での販売は、「味シメジ」にあやかった詐称であり、決して本物のホンシメジではないのです。天然のホンシメジと誤解を招く名称であることから、品質表示の適正化に関するJAS法の改正を機会に、最近はやっと分類学的特性に基づいた正式和名で販売されるようになりました。しかし、消費者の間では、まだまだヒラタケ(以前までシメジと呼ばれていたきのこ)やブナシメジ(以前までホンシメジと呼ばれていたきのこ)を本物のホンシメジと思っておられる方が多いように思われます。
 ところが、「シメジ」にまつわるこのような名称の混乱に、更に輪をかけるような画期的な栽培技術が開発されました。即ち、シメジ属の本物のホンシメジ(味シメジと呼ばれているきのこ)がとうとうオガコによる人工栽培が可能となったのです。こうなると益々消費者にとっては、「シメジ」と呼ばれる市販きのこ類の選択に混乱を招く結果と成り兼ねません。しかし、本物のホンシメジの人工栽培が可能になったとは言ってもまだコスト的な課題があって、どこでも入手可能な生産量までには至っていないようですが、品種改良や栽培技術の改善により、将来的には廉価な販売が可能になるものと思われます。
 更に驚くことには、新しくオガコでの人工栽培が開発された当の「ホンシメジ」ですが、最近の研究成果によれば、実は遺伝子解析を行った結果、現在ホンシメジと呼ばれている「種」には、「隠蔽種いんぺいしゅ」の存在することが判明したのです。具体的には、鳥取と兵庫の両県から採取されたホンシメジと岩手県で採取されたホンシメジとの交配試験を実施した結果、これら2個所の株と岩手県で採取された株とでは交配が成立しないことやrDNA‐ITS領域の塩基配列の解析結果においても明らかに異なるクラスターに属することが判明したのです。もともと、ホンシメジに関しては形態特性のみならず、組織分離した菌叢の違いから、菌根型と非菌根型の2つのタイプが存在することは指摘されていたのですが、この事実が科学的に立証されたという訳です。すなわち、天然のホンシメジには菌根型の本物とはたけしめじに極めて近い腐生型の偽物(隠蔽種)の2種類が存在しており、隠蔽種タイプにおいてのみはたけしめじ同様にオガコを使った人工栽培が可能になったと言うことなのです。
 そうなると、ますます「ホンシメジ」の名称が混乱してしまうのですが、隠蔽種と判明したからにはホンシメジと呼んで問題ないのかという疑問が生じてきます。本物と交配しない「種」となれば、いずれは別種になると思われますが、これまでの分類学上の鑑定経緯からしても本物同様に「ホンシメジ」として扱われてきましたので、販売名称に関して当面は今のままで特に問題となることはないと思われます。しかし、隠蔽種であるこが科学的に判明した訳ですので、将来的には別種扱いになる可能性が高いのではないかと考えられます。なお、菌根型の本物のホンシメジは、感染苗による人工栽培の成功例が報告されておりますので、広葉樹との「共生」という形での人工栽培は可能なようですが、オガコによる菌床栽培の技術はまだ確立されていないようです。


「シメジ」と呼ばれる3種類のきのこと天然のホンシメジ

ひらたけ
ぶなしめじ
ほんしめじ
   
天然のホンシメジ