株式会社キノックス

きのこの豆知識・その5

注目の薬用きのこ ヤマブシタケ

ヤマブシタケは、「ボケ」に効くきのことして、21世紀の高齢化社会に向けて近年注目されるようになってきているきのこです。年をとるごとに物覚えが悪くなり、記憶力が低下するのは老化現象の現われですが、世界一の長寿国である日本において、「ボケ症状」に代表される「アルツハイマー型痴呆症」は年々増加傾向にあり、社会問題となっています。「ボケ」の原因として一時「アルミニウム犯人説」が唱えられた時期もありましたが、アルツハイマー型痴呆症の本当の原因はまだはっきりと特定されてはいません。そのため、予防や治療のための「切り札」が求められており、健康で長生きのための「食」の見直しが大切との見地から、機能性食品などによる「代替医療」が近年話題になっています。このような中、アルツハイマー型痴呆症に効果のあるきのことして、ヤマブシタケが一躍注目を浴びるようになりました。
 ヤマブシタケはサンゴハリタケ科サンゴハリタケ属のきのこで、通常のきのこで見られるような「傘」を分化せず、長さ1~5cmの無数の針が垂れ下がる、白~淡黄褐色の球状形をしたきのこで、日本やお隣の中国全土に広く分布する木材腐朽菌です。和名の命名者は植物学者の白井光太郎博士で、山伏が衣の上に着る「篠懸(すずかけ)」の胸に付ける飾りに似ていることに因んで命名されました。初夏~秋にかけてブナ、コナラ、ミズナラなどの広葉樹の立ち木や枯れ木などに発生する比較的珍しいきのこで、食味的にはさわやかな歯切れと口当たりの良さが特徴です。ふさふさした白い針の塊がウサギの形に見えることから「ウサギ茸」や肉質がスポンジ状で乾燥すると吸水性が良好となるため、下戸(げこ)が飲めない酒を吸い取って誤魔化すのに用いたとのことから、九州地方の一部では「ジョウゴタケ(上戸茸)」などのユニークな地方名でも親しまれています。中国では猿の頭に似ていることから「猴頭茸(ホウトウグウ)」と呼ばれ、古来より消化不良、胃潰瘍、神経衰弱などに効果があるだけではなく、頭の良くなるきのことして高級食材のみならず漢方薬としても珍重されています。
 日本でも機能性に関する研究が行われており、脳内の神経成長因子(NGF)の合成を促進する脳内ホルモンの一種である「エピネフリン」と呼ばれる成分に類似した物質として、「ヘリセノン類」と「エリナシン類」の2つの成分が見出されました。ヤマブシタケに含まれるNGFは人の脳内で合成可能な物質ですが、年齢を重ねる毎に減少することから、加齢と共に徐々に脳細胞の「ボケ」が始まるとされています。ヤマブシタケから見つかったNGF合成促進剤は動物以外から得られた初めての天然活性物質として、「ヘリセノン」と命名されました。その後、菌糸体からも同様の作用を有する「エリナシン」と呼ばれるNGFの合成誘導促進作用を有する物質も発見され、脳の若返りを図り、痴呆症の改善に効果のある機能性食品としてヤマブシタケは注目されるようになりました。研究者によっては脳内で合成されるNGFと異なり、「血液脳関門」を通過できないとの意見もありますが、ラットを使った実験や実際の臨床試験などにおいても痴呆症の改善効果が確認されたとの報告もあることから、今後の更なる研究が待たれるところです。
 きのこを食べ続けることにより脳の若返りを図ることが期待されることから、ヤマブシタケは高齢化社会を迎える21世紀にまさにふさわしいきのこだと言えるかも知れません。その他の成分としては、免疫賦活作用や抗腫瘍作用を示す高分子多糖類(β-グルカン)も多く含まれ、更には、血中コレステロールを低下させるポリマーや抗菌性物質なども含まれることが報告されています。最近ではヤマブシタケの人工栽培の技術が確率したことから、スーパーなどでも独特の形状をした生のきのこにお目にかかることが出来るようになりました。「ボケ」に効くとは言っても機能性食品は基本的に「薬」ではありませんので、食べてすぐに効果を発揮すると言うものではありません。日常的に毎日食べ続けることが予防的観点から、何よりも肝心なことなのです。

ヤマブシタケ画像