株式会社キノックス

きのこ驚きの秘密・その5

しいたけの学名

「しいたけ」の名前を初めて西洋に紹介したのは、「日本植物誌(1784年)」の著者のツュンベリーであると言われていますが、その学名が次から次へと推移したことで有名なきのこです。同名の著書の著者であるシーボルトも32種の日本産食用きのこを紹介していますが、「シイタケ(Siitake,Japon)」と名前のみの記載で、学名を付けてはいないのです。「しいたけ」に学名が付けられたのは明治時代になってからで、イギリスの科学調査船チャレンジャー号が世界一周の航海で1875年に日本を来訪した際に、21点の菌類標本を採集してイギリスの著名な菌類学者であるバーケレイに送られ、Agaricus (Armillaria) edodes.Berk.と学名が付けられました。種小名のedodes は、「江戸」に由来すると言われていますが、ギリシャ語のedodimos (食用になる)との説もあります。しかし、ドイツのシュレーターが異論を唱え、その形状からCollybia(モリノカレバタケ属)に所属する菌とし、Collybia shiitake J.Schret. と命名したのです。参考までに、近年のDNA解析によれば、「しいたけ」はシュレーターが指摘したようにモリノカレバタケ属に近縁な種であることが判明しています。

シュレーターの命名が間違っていることを指摘したのは、北海道帝国大学の菌学者、伊藤誠哉です。イギリスのキュー植物園を訪れた際、Agaricus edodes の基準標本を調べた結果、edodes が「しいたけ」の種小名であることを確認し、論文発表したのです。このように「しいたけ」は、さまざまな属に所属が変わった経緯があります(図1)。現在の「しいたけ」の学名は、1975年にイギリスのペグラーが「しいたけ」及びその近縁種だけを含む小さな属(しいたけ属)であるLentinula 属に移したことから、Lentinula edodes (Berk.) Pegler となっています。

1980年頃まで「しいたけ」は日本および東南アジアだけに分布すると思われていたのですが、その後の研究によりフィリピン、ボルネオ、ニューギニア、オーストラリア、二―ジーランドなどにも分布することが解ってきました。これら外国産の「しいたけ」は、これまで別種として考えられていたのですが、日本産の「しいたけ」と交配試験の結果、同一種であることが判明しました。これら外国産の「しいたけ」の学名を含め、最も古い学名の種小名はedodes であることから、現在の学名に決定したと言う「しいたけ」の学名には紆余曲折の長い命名経緯があるのです。

Carl Peter Thunberg
(1743~1828年)

日本植物誌(1784年)の原著

 

(図1:しいたけの学名の属の推移)

 

 

参考文献 : きのこミュージアム(2014年)

著者:根田仁、発行所:八坂書房