株式会社キノックス

きのこ驚きの秘密・その1

マコモタケ(真菰茸)

「マコモタケ」とは一体どのようなきのこでしょう? 「マリモ」のような丸い形をした緑色のきのこ? 名前から判断すると一見きのこのように思われる名称ですが、実はきのことは全く関係のない植物の名前です。マコモタケは漢字で書くと「真菰竹」で、「真菰(まこも):Zizania latifolia」と呼ばれる沼や川などに生える東アジア原産のイネ科の多年草植物に「黒穂菌(Ustilago esculenta)」と呼ばれる担子菌(食用菌)の一種が感染することで茎が肥大化し、タケノコ(筍)のように見えることから付けられた名前です。食味的には、タケノコに似たしゃきしゃきとした食感で、ほのかな甘味があり、癖がないため生でも食べられます。油との相性が良いことから、特に炒め物などの中華料理に適しています。また、成分的には、食物繊維の他にタンパク質やビタミン、さらにはミネラル、カリウムを多く含む食品で、健康食品としても注目されるようになっています。
 「マコモ」は今から1億万年程前に出現した植物で、出現当時から現在と同じ姿で地球上に生息していたことが化石の調査によって確認されています。マコモの茎部に菌が感染することで生じる「マコモタケ」は古くから中国では食用として利用されており、中国のほか台湾やベトナム、カンボジアなどのアジア各国でも食用のみならず薬用としても幅広く活用されているポピュラーな食材のひとつです。
 気温が低くなると黒穂菌の黒い色素によりマコモの白色部分に黒い斑点状の「胞子」が形成されるようになりますが、この胞子は「マコモズミ」と呼ばれ、日本では平安時代からお歯黒や眉墨、あるいは漆器(鎌倉彫)の顔料などとして用いられてきた経緯があります。
 なお、北米大陸に自生する近縁種のアメリカマコモ(Z.aquatica)は、その種子を五大湖地方の原住民であるアメリカインディアンが今でも食料として利用しており、「ワイルドライス」の名前で呼ばれています。このように、マコモは世界的に古くから食料などとして広く利用されてきたことから、野生から食用のために栽培されるようになった過渡期の貴重な植物だと言えます。マコモの茎部の一部である「マコモタケ」はきのことは直接関係のない名前ですが、菌糸(きのこと同じ担子菌)が感染した植物の一部を食用として利用する観点からするとまさにきのこ同様「菌食」に通じるところがあり、食料としてのみならず健康食品としても活用してきた先人達の知恵を見直したいものです。

マコモタケ画像
写真引用文献
野外で探す微生物の不思議「カビ図鑑」(2010年)
著者:細谷剛・出川洋介・勝本勝、発行所:全国農村教育協会